2022年6月に発表されたNTTグループの「新しい働き方」は、ビジネスシーンに大きなインパクトを与えました。居住地を自由とするなど大胆なリモートワークの推進の裏には、シンプレクスのサービス「Deep Percept for remote work」の存在があります。NTTが求めたのは、リモートワークのための高度なセキュリティ。シンプレクスがそのために提供したのは、当社独自のAIエンジンによる対策でした。
対談メンバー
- 日本電信電話株式会社
- 技術企画部門 IT推進室担当部長 星野 亮氏
- シンプレクス株式会社
- Deep Percept for remote work共同事業責任者 安藤 大志
沖縄に住んで東京で“働く”。居住地自由のリモート・スタンダード
シンプレクス株式会社 安藤 大志(以下、安藤)
NTTグループのリモート推進は画期的ですよね。ニュースで知ったときは「ここまでやるのか」と驚きました。
日本電信電話株式会社 星野 亮氏(以下、星野氏)
思っていた以上の反響でした。NTTグループとしては、コロナ禍以前から業務変革・DX、制度の見直しや環境整備の一環としてリモートワークの推進を進めていました。コロナ禍で加速化したのも事実ですが、一過性ではなく継続していくための仕組みづくりを行っています。
安藤
私も含め、多くの方が驚いたのは「居住地の自由」という点だったと思います。多くの企業がまだリモートワークのあり方を模索している段階で、かなり思い切った施策だと感じました。実際のところ、どのような働き方をされているのでしょうか。
星野氏
まず前提として言わなければならないのは、あくまでも「リモート・スタンダード」であって、リモートの強制ではないということです。顔をあわせて話したほうが効率的なことも少なくないですから、必要に応じて出社することもあります。でもそのためにオフィスに行くのは、これまでのように「出社」ではなく、「出張」という扱いになります。
安藤
それぞれの社員にオフィスというか拠点はあるわけですよね?
星野氏
そうです。ただ日常的に働く場所という意味でのオフィスは自宅となります。この自宅は国内なら北海道でも沖縄でも構わない。私の場合、拠点は大手町になるのですが、もし沖縄に住んでいた場合、オフィスに行くときは飛行機代も、必要であれば宿泊代も支給されます。勤務地が変更になった場合でもこれまでのように家族ごと引っ越しをする必要がないわけです。
安藤
なるほど、それはいいですね。星野様はどのくらいのペースで出社していらっしゃいますか?
星野氏
私は週1回くらいですね。一人だけ出ても意味がないので、一緒に仕事をしているメンバーとスケジュールをあわせて、その日はなるべく多くのコミュニケーションをとるようにしています。
覗き見、なりすまし、盗撮……課題は「人による脆弱性」
安藤
そこまでリモートを徹底していくとなると、真面目に働いているかとか、サービス残業をしていないかとか、勤怠管理、労務管理が気になるところです。NTT様ではどのように管理されているのですか?
星野氏
これまでもPCのログで勤怠や労務の管理ができるようなシステムでやってきたので、その点は大きな問題はありませんでした。また評価についても、成果を勤務時間ではなくアウトプットで見るようにすること、会議などでのホウレンソウや業務の進展を促進する発言の頻度を見ること、管理者と一般社員が定期的にコミュニケーションをとる機会を設け、お互いに信頼関係を醸成することなどの対応を以前より行っていますので、リモートにしたことによる不便はありませんでした。課題となったのは、より高度な個人情報や機密情報を取り扱う部門のセキュリティ対策です。外部ハッカーの侵入やサーバー攻撃による情報漏えいなどのセキュリティ対策を施した端末を支給したり、情報をクラウドで管理したり、IT環境の整備はこれまでも行ってきました。でもそれだけでは防げない点もあるわけです。
安藤
覗き見やなりすまし、盗撮といった「人による脆弱性」ですね。
星野氏
そうです。覗き見やなりすましは対策できるソリューションが世の中に存在していましたが、対策が難しかったのは盗撮でした。覗き見やなりすましなどは顔の認証で検知することができるのですが、スマホがPC画面に向けられていることの検知は難しかったのです。ですが、この対策ができないとリモート化するのが難しい業務もあるという課題がありました。
安藤
ここでいよいよシンプレクスの出番ですね(笑)。実はこの盗撮の問題は、個人的に別の角度で懸念していたのです。SNSを見ていると、「猫ちゃんがリモートワークの邪魔をして困りますー」みたいな写真をアップしている人がいるのですが、その奥にPCの画面が写っていたりする。もしそれが機密情報だったらと思うとゾッとしませんか?それがいったんSNSにアップされると一気に拡散する可能性がある。こういう“悪意のない盗撮”が問題になる可能性があるなと思っていました。
星野氏
それはありえますよね。私たちも、社員側の「もしかしたら自分がうっかり情報を漏えいしてしまうんじゃないか」という不安を払拭したいと思っていました。
安藤
もともとは機密情報を取り扱う機会が多い金融機関様からのリクエストで、シンプレクスグループのAI企業であるDeep Percept株式会社と共にリモートワーク時のセキュリティ対策ソリューションの開発に着手しました。金融機関様だけでなく、コールセンター事業者様などへも導入いただく中で、御社が2021年秋に発表されたリモートワークに関するお取り組みの中でもご活用いただけるのではないかと考えていたところに、星野様からご相談いただきました。
星野氏
シンプレクスさんから「盗撮へのセキュリティ対策、できますよ」と言われたときは、うれしかったですね(笑)。
使用者のプライバシーもきちんと守るAI
安藤
シンプレクスは独自のAIエンジンで検知すべき盗撮の行為のみを検知することを実現しています。スマホのカメラを検知してブロックする。でもPCでの作業中に電話がかかってきて話をしているようなときは、検知システムが作動しない。かつ社員のプライバシーも守る。開発のキーとなったのは大きくはその3点でした。
星野氏
セキュリティ対策のためとはいえ、PCのカメラによる社員の監視になってしまうと、みんな萎縮してしまいますからね。
安藤
はい。そこでこのサービスでは、盗撮を検知した場合、盗撮されたと思われる瞬間のみWEBカメラで撮影した静止画とそのとき表示していた画面のスクリーンショットが管理者に送られるようにしました。決して常時監視ではないわけです。
星野氏
その静止画も手元や顔だけで背景をボカしてくれる。背景にある個人の趣味を不用意に写すことがないというのもいいと思いました。私も試してみましたが、ちゃんと背景がボケていました。人に隠すような趣味はないのですが、部屋がちょっと散らかっていたので助かりました(笑)。こういう使用者側の安心感は導入の上ですごく大切です。
安藤
ご利用中のお客様からこういう機能は追加できないかというご要望もいただいているので、随時バージョンアップをしていく予定です。シンプレクスはもとより、パッケージ商品をそのままお客様にインストールするだけのサービスはしておらず、お客様の課題に合わせて最適なカスタマイズや0からのシステム構築をするスタイルです。「Deep Percept for remote work」もお客様と共に、よりよいソリューションへと進化していきます。
星野氏
アップデートや状況にあわせたチューニングができるのはありがたいです。実際、使用しながらどんどん精度が上がっているのは実感しています。NTTでは、グループ各社におけるリモートワークの推進に取り組んでおり、特にリモートワークが難しい組織や業務においても、リモートワークが20%程度はできるというような底上げに取り組んでいきたいと考えています。もちろん、これは一つの指標であり、最終ゴールであるEXや生産性の向上に向けての取り組みも目標を定めて実践していく予定です。グループ各社でのリモートワーク環境整備にあたり、シンプレクスさんにはこれからもご協力いただきたいと思っています。よろしくお願いします。
安藤
こちらこそよろしくお願いします。
PROFILE
2021年より日本電信電話株式会社にて、グループ全体のITガバナンスの推進、特にインフラ/セキュリティ関連領域で様々な業務に携わっている。
共同事業責任者