全国の小中学校、約1万校以上の教室で日々使われているICT学習ソフト「ミライシード」。提供するのは、幼児から社会人まで一人ひとりの成長を支援する株式会社ベネッセコーポレーション(以下、ベネッセコーポレーション)です。
ベネッセコーポレーションでは「ミライシード」のさらなる進化を目指し、同ソフトに搭載されているAI搭載デジタルドリル「ドリルパーク」オフライン版のリニューアルと、CBTアプリ「テストパーク」の機能開発に取り組みました。このプロジェクトを支援したのが、シンプレクス株式会社(以下、シンプレクス)とXspear Consulting株式会社(以下、クロスピア)です。グループで一気通貫のトータルソリューションを強みとする両社が、どのようにベネッセコーポレーションと共にサービスを進化させたのか。関係者に話を聞きました。
対談メンバー
- 株式会社ベネッセコーポレーション
- 学校プロダクトエンジニアリング部 担当部長 平田 敦志氏
- 小中学校商品部 ミライシード商品企画2課 橋本 優奈氏
- 学校プロダクトエンジニアリング部 小中プロダクトエンジニアリング課 山本 貴志氏
- 学校プロダクトエンジニアリング部 小中プロダクトグロース課 課長 毛利 翔氏
- シンプレクス株式会社
- クロス・フロンティアディビジョン プリンシパル 王 健(プロジェクト時はXspear Consulting株式会社所属)
- クロス・フロンティアディビジョン アソシエイトプリンシパル 志水 秀光(プロジェクト時はXspear Consulting株式会社所属)
- クロス・フロンティアディビジョン リード 笹本 浩保
「ミライシード」が目指す、一人ひとりに最適な学び
全国の小中学校1万校以上に導入されている「ミライシード」は、教育のDXをサポートするオールインワンのICT学習ソフトです。搭載されているアプリは大きく三つの領域にわかれており、基礎学力の定着には今回開発を行った「ドリルパーク」や「テストパーク」、協働学習の支援には「オクリンクプラス」、ほかにデータ利活用のための「カルテ」などがあります。

ベネッセコーポレーションでミライシード開発の統括責任者を務める平田氏は、サービスに込める思いをこう語ります。「ドリルパークやテストパークで扱う認知特性のデータと、オクリンクプラスを使った協働学習などで得られる非認知特性のデータを掛け合わせて、より個別最適な学習体験を提供することを目指しています。児童・生徒たちの力を引き出すと同時に、先生方の業務負荷軽減にも貢献していきたいと考えています」
「ドリルパーク」と「テストパーク」それぞれが抱えていた課題
今回のプロジェクトは、AI搭載デジタルドリル「ドリルパーク」とCBT(Computer Based Testing)形式の単元テスト「テストパーク」、それぞれが抱えていた課題を解決するために始まりました。
ドリルパークはオンラインとオフラインで提供していますが、オフライン版はWindowsにしか対応しておらず、ChromebookやiPadを採用している自治体には導入できませんでした。しばらく時間を空けてログインすると起動に時間がかかったり、データ容量が大きくなって他のアプリが入れられなかったりする機能的な問題もありました。事業担当の橋本氏は「地域や家庭によって通信環境に差があるため、オフライン版は必須という自治体も少なくありません。そうしたニーズに応えられていませんでした」と語ります。
システム面にも課題がありました。コロナ禍以降、ドリルパークの利用者が急増。サーバーを増設し続けた結果、インフラコストが膨らんでいました。開発担当の山本氏は「膨大な学習履歴データの蓄積で呼び出しに時間がかかるようになっていました。オフライン機能の刷新だけでなく、システムのアーキテクチャを改善することも今回の狙いでした」と説明します。

一方、テストパークは2024年度に無償モニター版を提供し、2025年に正式リリースされた比較的新しいアプリです。初期リリースではベネッセコーポレーションが提供するプリセットのテストのみで、教員が独自にテストを作成する機能や、漢字のとめ・はね・はらいなど形状を判定する自動採点機能は搭載できていませんでした。「特に、中学校では先生が自分で問題を作りたいというニーズが高く、早急に機能提供する必要がありました」と開発・事業担当の毛利氏。不具合を解消するだけでなく、今後も高い品質を維持できる体制づくりも求められていました。
依頼の決め手は、開発のプロセスから一緒につくれること
シンプレクスグループとは過去にも協働しており、難易度の高い案件を一緒に乗り越えた経験がありました。平田氏は「クロスピアはプロセス改善力、シンプレクスは開発力が高く、その両方で開発を推進していける点が大きかったですね」と選定理由を語ります。「一般的な開発ベンダーは言われた開発をするだけということもありますが、今回は品質を担保するためのプロセスづくりから入ってもらえた点も決め手になりました。」
従来、金融業界を主戦場としてきたシンプレクスグループですが、「業界の違いによる壁は感じませんでした。むしろ理解しようとする姿勢が見られて、安心できました」と平田氏。橋本氏も「システム視点だけでなく、ユーザ視点からも提案してもらえて、作りながら一緒に改善できたのがよかったです」と話します。

ドリルパーク支援では、当初の依頼はオフライン機能の技術検証でしたが、話を聞くうちにインフラコストや性能面の課題も見えてきました。「規模が大きく難易度も高いため、1~2年かけて一気に全面リプレイスするより、段階的にリリースしてフィードバックを取りながら進化させるアジャイル開発を提案しました」とドリルパークの支援を率いた志水。
「ちょうど社内で『ハーフプロダクト開発』という考え方が立ち上がった頃でした。半分の期間やコストでまず世に出し、フィードバックをもらいながら改善していくアプローチです。そこにアジャイル開発の提案をもらい、タイミングが合いました。アジャイルに精通したメンバーに並走してもらえたのは心強かったです」と平田氏。志水も「表面的な支援ではなく、内製開発支援という形で深く入り込みました。動き方や考え方、フローなどを一緒に整理しながら、一体となって進められたと思っています」と振り返ります。

一方、テストパークはウォーターフォール型にアジャイル的な小サイクルを組み込む、ハイブリッドな進め方を採用しました。笹本がPL兼スクラムマスターとして現場を見て、PMの王が全体の品質を統括しました。「ウォーターフォールではお客様とベンダーで期待値やスコープの認識に差が出ることがありますが、今回はスコープの議論より先に、ビジネスやユーザにとって何が最善かを考えることを大事にしました」と王。笹本も「ウォーターフォールの枠組みは守りつつも、動くものを早期に見せてフィードバックを即反映することを徹底し、事業・ユーザへ提供する価値を軸に優先順位の認識を揃えることに注力しました。POと開発者が直接会話できる場を増やしたことで、最終的な品質を高められたと思います」と振り返ります。スピード感と柔軟さ、そしてワンチームで臨む姿勢を重視しました。
週1回のデモで見えてきた本当に必要な機能
こうして体制を整え、プロジェクトは本格始動しました。「同じ目線でプロダクトに向き合いながら、サービスの方向性を議論したいと考えていました」と志水。毎週オフィスに足を運び、開発中の画面をデモで見せながら改善を重ねました。リモートではなく、膝を付き合わせて対話することを大切にしました。

ドリルパークは1週間のスプリントで開発を進めました。平田氏は最初のスプリントが印象に残っていると言います。「初回に出てきたものがすぐに動くものだったのはインパクトがありました。これなら任せられると。アーキテクチャの提案も私のイメージとほぼ一致していて、技術力と提案力を感じました」
志水たちは毎週、動く状態まで仕上げてデモを行いました。なぜこう作ったのか、背景も含めて説明する姿勢を、山本氏は高く評価します。「熱意が伝わってきて、チームの雰囲気がとてもよかったですね。毎週お会いするのが楽しみでした」
毎週デモを繰り返すことで、当初予定していた機能が不要になったり、逆に足りない部分が見えてきたりと、発見が多かったと言います。たとえば、先生役と児童・生徒役にわかれてロールプレイを行うと、課題を配信しても受け取る側の画面に表示されないことがわかり、すぐに更新ボタンを追加。また、教育委員会への提案活動に同行したり、カンファレンスを訪問したりと、現場の声を聞く機会も積極的に設け、そこで得たフィードバックをプロダクトに反映していきました。
ただ、要望が次々と出てくる中、やらないことを決めるのは難しい判断です。「序盤にサービスやチームの方向性をしっかりすり合わせました。最終的には橋本さんが事業部のオーナーとして意思決定してくださり、助かりました」(志水)
学校のネットワーク環境を想定した低速環境でのテストも行いました。本社のある岡山で2Mbps程度の環境を再現し、ダウンロードやアップロード試験を実施。「志水さんたちにも岡山まで来ていただき、問題が起きた際も粘り強く原因を追究してくれました」(山本氏)
テストパークでは、UAT(User Acceptance Test/ユーザ受入テスト)の前に「プレUAT」を実施し、開発段階から事業部に実際に触ってもらう機会を設けました。「初期開発時にUATで不具合が多く出たと聞いていたので、今回は早い段階で検証を行いました。漢字の書き取りテストはiPadとPCで操作感が異なり、タッチパネル特有の不具合も発生しやすいため、早い段階で対処できたのがよかったです。毎日夕会で不具合の状況を共有し、どれを優先するか一緒に議論しながら進めました」と笹本。「バグ出しのピークを前倒しした分、開発途中は大変な時期もありましたが、協力して乗り越え、UATは不具合を1桁台に抑えられました」と毛利氏も振り返ります。

ドリルパーク、テストパークとも予定通りにリリースを迎えました。「大変な時期もありましたが、柔軟性のある体制だからこそ乗り越えられました」(王)
「使いやすくなった」の声が続々、教育DXのさらなる前進へ
プロジェクトの成果は着実に現れています。ドリルパークは初期インストール時間を大幅に短縮し、マルチOS対応を実現しました。リニューアル後、iPadへの切り替えを検討していた自治体が継続を決めたほか、新規導入を検討する自治体も増えています。「教育委員会でのデモでも、インストールの速さや容量の軽さに好印象を持っていただいています」と橋本氏。
テストパークでは、教員が独自にテストを作成できる機能、漢字の自動採点機能、筆記体験の改善を実現しました。効果は数字にも表れています。
「以前は1時間ほどかかっていたテスト作成が、既存の問題を活用することで5分に短縮。漢字の採点も40分から5分になったというデータがあります」(毛利氏)。

導入校数も大きく伸びています。昨年度は数百校でしたが、2025年11月時点で約6,000校、2026年度には更に利用が拡大していく見込みです。
プロジェクトを通じてベネッセコーポレーションのメンバーの成長もありました。「2年目のエンジニアが月に1回ほど東京に来て、クロスピアのメンバーとペアプログラミングを行いました。若手の成長機会をつくっていただけたのはありがたかったですね」と山本氏。橋本氏も「初めて大きな案件でPLを担当しました。志水さんから『もうプロダクトオーナーとして動けていますよ』と言っていただいたことがきっかけで、資格も取得しました」と続けます。
「内製開発支援は、足りないリソースを補うだけでなく、お客様のエンジニアと一緒に成長していくことも大事にしています」と王。志水も「今回、みなさんの成長をお手伝いできた実感があり、本当にやってよかったと感じています」と手応えを口にします。
今回のプロジェクトを通じて、シンプレクスグループの強みを実感したという平田氏。「システム要件だけでなく、事業の課題に向き合って全体的に解決していただけました。プロセスの改善も含めて、他社より一歩抜きん出ていると感じています」。さらに今後はAI活用にも期待を寄せます。「これからのシステム開発ではAIの活用が鍵になるはず。技術力とAI活用を組み合わせて、さらなる生産性や品質の向上を図っていきたいです」。
この期待に王は「社内でもAIを活用した開発を進めています。内製開発支援と組み合わせ、より大きな価値を提供していきます」と応えます。
シンプレクスとクロスピアは今後も、技術力とコンサルティング力を生かし、教育をはじめさまざまな業界のDX推進を支援していきます。
PROFILE
学校プロダクトエンジニアリング部
担当部長
小中学校商品部
ミライシード商品企画2課
学校プロダクトエンジニアリング部
小中プロダクトエンジニアリング課
学校プロダクトエンジニアリング部
小中プロダクトグロース課 課長
クロス・フロンティアディビジョン
(プロジェクト時はXspear Consulting株式会社所属)
プリンシパル
クロス・フロンティアディビジョン
(プロジェクト時はXspear Consulting株式会社所属)
アソシエイトプリンシパル
クロス・フロンティアディビジョン
リード