対談メンバー
- 野村證券株式会社
- 未来共創推進部長 吉村 隆義氏
リテールIT部 野村 晃司氏 - シンプレクス株式会社
- クロス・フロンティアディビジョン プリンシパル 前田 貴史
クロス・フロンティアディビジョン UI/UX Design Office Alceo プリンシパル 佐藤 慧太
2022年5月にリリースされた野村證券の資産運用アプリ「NOMURA」。スタートからわずか10ヶ月でリリースまでたどり着いた背景には、野村證券とシンプレクスがワンチームとなった企画開発体制がありました。
今日議論したことを翌日プロトタイプでチェック
野村證券株式会社 吉村 隆義氏(以下、吉村氏)
スタートの企画段階は本当に手探りでしたね。単なるトレーディングではなく、資産運用全体のアプリということで、ユーザーにとって何が必要なのか、どうすれば使いやすいかなど、膨大な仮説があり、それを検証していく。発散の議論は進むのですが、それをどう収束させるのか。難しさを感じていました。
シンプレクス株式会社 佐藤 慧太(以下、佐藤)
スタート段階では、ターゲットユーザーやニーズの仮説、そこにどんな価値を提供していくかなど抽象的なテーマが多く、発散しやすかったですね。さらに今回は、特に多様なメンバーでの議論だったので、最初はなかなかまとまりにくかったかもしれません。部門横断的に有識者の方々にご参加いただき、鋭いご意見を多数いただけました。ただ、期間が決まっている中でも、既存の取引アプリにない新しい価値を探すためには、多様なメンバーによる発散した議論こそ必要なことでした。
野村證券株式会社 野村 晃司氏(以下、野村氏)
そのカオスのなかで、佐藤さんが吉村に資産運用や証券会社、投資家のことなどについて何度も熱心に聞いていたのが印象的でした。いいものを作ろうという本気度が伝わってきました。
佐藤
私を含め、シンプレクス側の人間が正しく理解しなければいいアプリにならないと思い必死でした。長年の営業経験で投資家のことを深く理解している吉村さんのようなプロフェッショナルと、ユーザー中心のデザイン経験を積んだ私のようなものが、本音でじっくり議論することに意味があるんです。
企画段階で4ヶ月。200ほどユーザーストーリー(ユーザー目線の要望)を挙げて、そこから100まで絞り、ユーザーテストを2回行って、プロトタイプを作成しました。
吉村氏
こちらとしてありがたかったのは、今日議論したことが翌日にはプロトタイプとなっていること。言葉とかパワーポイントだけだと、細かいところまで詰めきれないのですが、実際触れられるものを作っていただいたおかげで確認も容易でした。
佐藤
このころはずっと吉村さんと一緒にいるような感覚でした。毎日のように一緒に、とことん検討させていただけて、助かりました。ユーザーテストさせていただいた方のお名前や投資傾向をすっかり覚えてしまい、通称で伝わり合うくらいに一人ひとりに向き合って議論し、デザインしましたね。
シンプレクス株式会社 前田 貴史(以下、前田)
企画段階の終盤から次のスクラム開発の準備をしていました。 “MVP”(最小限のプロダクト)をどう設定するかというのが一般的にまず重要なポイントです。
今回は企画段階でMVPのベースが合意されており、その背景にある“コンセプトシート(アプリのターゲット、コンセプト、提供価値をまとめたもの)”や“動くプロトタイプ”も存在していたことがスクラム開発に活きました。
野村氏
MVPは、スクラムを進める中で変化していくものです。スクラム開始の段階で、トレードオフがあるなかで、何を優先すべきか、チームメンバー15人全員で議論した結果、とにかく品質にこだわるというゴールを共有しました。企画時の検討内容をスムーズに把握でき、MVPリリース後の頻繁なリリースを目標にしていることや、アプリとして何を大切にしているかを分かった上で判断できたのが大きかったと思います。
「なんで謝るんですか?」
前田
「スクラム開発フェーズ」では、毎週火曜日に「スプリントプランニング」「スプリントレトロスペクティブ」「スプリントレビュー」、金曜日に「プロダクトバックログリファインメント」を開催していたのですが、野村さん、吉村さんには週2回シンプレクスのオフィスにお越しいただき、開発チームと一緒に仕事していただいていました。衝撃的だったのは、一度、スプリントの中で実施する予定だったものがレビューまでに実施できていなかったことがあり、スプリントレトロスペクティブにて開発チームのメンバーが吉村さんに謝罪をしたところ、吉村さんが「なんで謝るんですか?」とおっしゃったこと。私たちのような受託開発の企業で働くエンジニアとしては、発注者のリクエストに応えられず申し訳ないという気持ちがどうしてもあったのですが、吉村さんはそのように考えていなかったのですよね。
吉村氏
週2回朝から晩まで一緒にいるわけですから、チームのメンバーがどういう状況でどのくらいの業務量をこなしているか分かっていました。短期間で新しいことをしようとそこまでワンチームでやってきたのに、少し遅れると急に発注者と受注者になってお詫びするというのが良くないと思ったのです。このチームは全員、身内。そうでなければうまくいかないと思っていました。
前田
あのときは、私を含めシンプレクス側メンバー全員が「この人とやっていこう」と強く思いました。吉村さんから「身内」という言葉が出ましたが、野村さんは開発チームメンバーの趣味を知っているほどで、私よりも開発チームのメンバー個々人のことをよくご存知でした。
野村氏
毎週のスプリントレトロスペクティブや隙間時間にプライベートな話題も話していました。信じて任せたいからこそ、相手のことをよく知っておくのは大事なことだと思います。
前田
スプリントレトロスペクティブではプライベートな話もしましたし、全員で話し合う中でいろいろな改善策が生まれ続けたことがよかったと感じています。
野村氏
いつかのスプリントレトロスペクティブで、Slack(コミュニケーションツール)が開発側と野村側の二つあったのを一つに統合してみよう、となりましたよね。それによって私たちとしても開発チームの進捗や困っていることを、よりタイムリーに理解できるようになりました。そういえば、一度「エンジニアがケンカしているから打ち合わせに遅れます」ってことがありましたよね(笑)。
前田
ありましたね(笑)。エンジニア全員が発注者の方と直接お会いしたり話をしたりすることは、あまり一般的ではないと思います。ですが、今回のスクラム開発では吉村さんや野村さんとダイレクトに意見を交換できたので、エンジニアも熱が入っていました。メンバー全員がこのプロダクトを良いものにしようと思っていて、その思いが高まりすぎたためにエンジニア同士が意見の食い違いからケンカになってしまいました。スクラムマスターの私としては、“健全な衝突”だと思い、見守っていました。
リリースしてからがスタート
野村氏
そういうハプニングはうれしくもありますよね。私たちとしては、「発注者がこう言っているのだからそれでいい」という仕事より、開発者が自分たちの意思で、より良いものを作りたいと思ってくださっていることをうれしく思いました。
佐藤
スクラム開発時も継続して、細部のデザインやMVP時点のデザインのチューニングを行っていましたが、エンジニアの主体性の高さは本当に頼もしく感じていました。
前田
発注者の方とエンジニアの関係性の在り方によってエンジニアのパフォーマンスがこれほどまでに変わるのかというのは、私にとっても大きな発見でした。野村さん、吉村さんがスクラムチームをチームとして成立させるためにコミットしてくださったことが大きかったと思います。
吉村氏
リリースまで10ヶ月という無茶なスケジュールだったにもかかわらず、期待以上のクオリティのアプリができたのは、シンプレクスさんといいチームになってスクラム開発ができたからだと思っています。
野村氏
シンプレクスさんのエンジニアは20代の若い方が多くて熱量も高い。30代の私としては、いい刺激をいただきましたし、こういう環境なら若い人たちが動きやすいのだという勉強にもなりました。
佐藤
「NOMURA」アプリは、今年の5月にリリースしましたが、まだまだスタート段階。ユーザーの反応も取り入れながら、これからより進化させなければと思っています。スクラム開発真っ盛りな中でも、リリース後の、後続企画検討や、モニタリング基盤の仕組みづくりを、沢山の関係者を巻き込みながら並行して実施してきました。スクラム開発のプロダクトオーナーを担いつつ、これらもきっちり遂行された吉村さんのバイタリティには頭が下がります。
吉村氏
そうですね。企画フェーズの議論で挙げた200のユーザーストーリーがありますし、実際使った人の声もこれからどんどん集まってくると思います。さらなる進化もワンチームでやっていきましょう。
佐藤・前田
はい、がんばりましょう。
PROFILE
未来共創推進部長
リテールIT部
クロス・フロンティアディビジョン
プリンシパル
クロス・フロンティアディビジョン
UI/UX Design Office Alceo
プリンシパル