2026年4月15日(水)~4月17日(金)、シンプレクス株式会社(以下、シンプレクス)は、社内向けワークショップ「AI駆動開発ワークショップ~3日間で数カ月分の開発を実現する、ゲームチェンジャーな開発手法~」を開催しました。
シンプレクスでは、2023年7月に専門組織「Generative AIコンピテンシー」を立ち上げ、全社的な生成AI活用を組織的に推進しています。今回のワークショップでは、要件定義からリリースまでの全工程をAIと協働することで、実際に動くシステムの初期版を3日間で完成させることに挑戦しました。
このワークショップは、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社(以下、AWS社)との共催で実現しています。シンプレクスグループからは、エンジニアだけでなくユーザ部門の担当者も参加し、非エンジニアを開発工程に巻き込みながら開発を進めました。
ワークショップの内容や成果について、企画・運営を担当したシンプレクスの盛本 篤司と五十嵐 駿に話を聞きました。
対談メンバー
- シンプレクス株式会社
- クロス・フロンティアディビジョン リード 盛本 篤司
- クロス・フロンティアディビジョン リード 五十嵐 駿
大規模・複雑なシステム開発に対応したAIネイティブな開発手法を採用し、プロジェクトの生産性向上を目指す
今回のワークショップを開催した最大の目的は、「プロジェクトの生産性向上」です。シンプレクスでは以前からコーディングAIを活用し、設計書やコードの生成を実践していますが、今回のワークショップで採用したのは、AWS社が提唱する「AI-Driven Development Life Cycle(以下、AI-DLC)」です。AI-DLCは、要件定義からリリースまでの開発プロセス全体にAIを深く組み込むことで、従来のスクラム開発で2週間かかっていた1スプリントを、1日や半日の「Bolt」という単位に圧縮するAIネイティブな開発手法です。大規模で複雑なシステム構築において、ツール・役割・プロセスが最適に整合するように設計されています。Agentic AI開発ツールはAWS社が開発したKiroを使用しました。

企画・運営を担当した盛本は、「AIネイティブな開発をシンプレクスのメンバーが体験し、実践的なスキルとして習得することで、プロジェクトの生産性向上、ひいては会社への貢献につなげたいと考えて企画しました」と説明します。
ワークショップには6チーム、約40名が参加しました。エンジニアだけでなく、マネジメント層や、システムのユーザ部門として管理部門からリソースマネジメントディビジョンのメンバーも参加し、協働してシステム開発に取り組みました。
非エンジニアを巻き込んだ理由は、AIをサポート的に使うのではなく、開発プロセスに深く組み込むことを目指したからです。この前提で進める際、要件や業務に関わる判断が曖昧なままだと成果物の方向性がぶれてしまうため、ドメイン知識のあるユーザ部門のメンバーにも参加してもらいました。

盛本と共に企画・運営を担当した五十嵐は、「『どういうものをつくるのか』を素早く言語化し、意思決定できる立場のメンバーに参加してもらうことが重要です。利用者が大事にしている価値を理解できるメンバーが、最初から議論に加わる体制をつくりました」と話します。
実際に動くシステムの初期版を3日間で完成させる。AI駆動開発ワークショップの内容
ワークショップは3日間にわたって開催されました。1日目はグループ内での議論を開始し、2日目に開発を進め、3日目には実際に動くシステムが完成し、成果を発表するという流れです。本番環境へのデプロイを前提とした実践的な開発を実施することで、実務に役立つワークショップを目指しました。
1日目:AIと対話することで要件を具体化
1日目は、午前中にワークショップの説明が行われ、AI-DLCの基本的な作業の進め方が伝えられました。AI-DLCでは「開始(Inception)」、「構築(Construction)」、「運用(Operation)」という三つのフェーズでソフトウェア開発が行われます。

引用:https://speakerdeck.com/kanamasa/ai-dlc-introduction
午後からは「開始(Inception)」のフェーズが始まりました。通常、AIに正確な回答をしてもらうためには、人間側がAIに渡すデータや情報を考える必要がありますが、AI-DLCでは、AIの質問に回答して対話することで、目的の情報にたどり着きます。これは「モブエラボレーション(Mob Elaboration)」と呼ばれる、AIと対話しながら要件の具体化を進めていく形式です。
盛本は、「制作したいシステムの概要をAIに伝えると『このような機能は必要ですか?』と複数選択形式で質問されます。質問への回答を繰り返していくことで要件が具体化され、仕様書が作成されます。AIが作成した仕様書を人がレビューし、過不足などを調整することで、構築フェーズでAIにインプットすべきデータや情報の明確化を迅速に進めることができます」と説明します。
五十嵐は「従来であれば、要件定義や設計を固めるために会議を何回も行い、長時間かけて進めてきました。AIを導入することで、多くの選択肢を提示してくれて、短時間で方向性がまとまります。AIが示す選択肢について、その場でユーザ部門も交えて比較・議論できるのは、大きな利点だと感じました」と振り返ります。
午後の13時から17時30分まで、各チームは要点やアイデアの整理を実施して進捗発表を行い、1日目は終了しました。
2日目:AIの提案を人間がリアルタイムに判断
2日目からは、「構築(Construction)」のフェーズに入ります。午前中は議論から開発着手、午後からは開発に集中します。要件が固まった段階で、コード生成を開始しました。
開始(Inception)フェーズで検証されたコンテキストを使用し、AIが論理アーキテクチャやドメインモデル、コードによる実装やテストを「モブコンストラクション(Mob Construction)」を通じて提案します。AIによる提案に対し、人間がリアルタイムに採用・非採用(改善)を判断していくことで構築を進めていきます。
コード生成の進め方には、チームごとの工夫が見られたと盛本は話します。「あるチームでは、コードレビュー専用のAIを用意して、第三者視点からレビューさせることで品質を担保していました。また別のチームでは、画面操作をAIに実行させ、自動テストを充実させることで品質担保を行うなど、各チームがさまざまな工夫を凝らしていました」
ワークショップ期間内でAIが生成するコードは非常に多く、なかには2万行にもおよぶケースもありました。短期間でそれだけのコードを人間がすべてレビューするのは難しいため、いかにAIを活用できるかが重要です。各チーム、品質とスピードの両立を目指し試行錯誤を繰り返していました。

3日目:実際に動作するシステムの開発が完了し、デモンストレーションを実施
3日目は、すべてのチームで開発が完了し、「運用(Operation)」フェーズに入り、成果発表が行われました。発表資料もAIで作成され、デモンストレーションを披露するチームもありました。その中から、2チームの発表内容をお伝えします。

社内ナレッジプラットフォームのリプレイスに取り組んだチームは、「気軽に書ける・反応がもらえる・記事に出会える」という三つの体験を軸に再設計を進めました。既存システムの改修では乗り越えられない課題があり、検討した結果、ゼロから構築する判断をしました。
意識したのは、「社内ナレッジプラットフォームに執筆・投稿するにあたっての心理的ハードルを極限まで下げること」です。Notionのようなブロック型のエディター機能を実装し、スムーズに執筆できる環境を構築しました。また、公開範囲を限定する機能を実装し、投稿の心理的ハードルも下げました。さらに、執筆者のモチベーション向上のため、コメント機能も実装しました。
読者にとっての使いやすさも重要な要素です。興味関心領域の新着記事をレコメンドする機能も構想しています。コアとなる機能は3日間で完成しましたが、ワークショップ後にも改良を加える予定です。

社内の人材管理システム構築に取り組んだチームは、議論をして根本課題を掘り下げた結果、プロジェクト情報管理システムを開発する方針を決めました。もともとは、社員情報とプロジェクト情報をかけ合わせてアサイン先候補をリストアップするマッチングシステムの開発を考えていましたが、まずはプロジェクト情報の見える化を実現し、段階的に拡張していくことにしました。
3日間でプロジェクト情報の一元管理・閲覧・検索ができるシステムの初期版がリリースされ、AD連携によるSSO認証やユーザの権限に応じたアクセス制御機能などが開発されました。
このチームにはエンジニアだけでなく、ユーザ部門としてリソースマネジメントディビジョンから非エンジニアも参加しており、お互いが開発初期から協働することで、より良いシステムの開発につながりました。
「ユーザ部門とエンジニアの協働が不可欠」ワークショップ参加者の声
AI駆動開発では、AIと対話する中で短時間に大量の意思決定を求められることや、回答に矛盾や曖昧さがあると鋭く指摘されることがあります。参加者からは「これまでに感じたことのないくらい脳が疲れたけれど、言語化できていなかった考えが引き出されました」という感想が寄せられました。
その他には、以下の感想がありました。
・AIとの対話内容はログとして保存されるため、情報をチーム内で共有できる点や議事録として参照できる点が良かった
・AIによって実装は手軽になりましたが、仕様や技術選定の判断にはスキルが必要です。ユーザ部門とエンジニアの協働が不可欠だと感じました
・今後の働き方も含めて、世の中が変わっていくと実感しました
一部の内容は社内にオンラインで公開し、ワークショップ参加者以外へもナレッジを共有しました。
五十嵐は、「通常であれば開発に数カ月かかるシステムを、3日間で動くものとしてつくり上げられることを実際のデモンストレーションで示せました。新しい開発プロセスのあり方とその有効性を共有できたのが、一番の成果だったと考えています」と振り返りました。
「今回取り組んだプロジェクトを従来の方法で開発した場合」と「AI-DLCを適用した場合」の工数見積を、ワークショップに参加したエンジニア向けのアンケートで収集したところ、工数の平均削減率は約73%でした。当初の目的である「プロジェクトの生産性向上」に向け、参加者が一定の手がかりを掴めたものと考えられます。
今後、AI駆動開発をどう活用していくか
AI普及後ほど、End-to-Endで品質保証や成果責任を担える企業の価値は高まります。シンプレクスはプライム受注を徹底し、かつ下請けに丸投げしない一気通貫のスタイルをとっているため、AIによる工数減を自社利益として取り込みやすい構造です。AI駆動開発によって生産性を高め、創出した余力を高付加価値化と受注拡大に振り向ける展望を描いています。
AI駆動開発を推進することにより、クライアントにどのような付加価値を提供できるのでしょうか。盛本は、二つあると話します。「一つ目はAIによって生産性を高めることで、高品質なシステムを効率的に提供できる点です。これまでコスト面で実現が難しかった案件も対応可能になると思います。二つ目はスピーディーにシステム開発できるため、クライアントのビジネス機会を早期に創出し、利益の最大化につなげられます」
五十嵐は、「より短期間で仮説や検証を行いながら、イメージを具体化してクライアントへ共有できる点も付加価値の創出につながると考えています」と今後の展望を語ります。
一方で、AIを活用した開発にはデータやセキュリティの観点で慎重な対応が求められます。AIツールの設定によっては、インプットした情報が学習データとして使用されてしまうリスクもあるためです。シンプレクスでは、こうしたリスクを踏まえ、情報が外部の学習に利用されない設定を徹底するとともに、生成AIの利用にあたっては、個人情報保護などの観点から社内基準に基づく、セキュリティチェックを実施しています。
AIは単なる効率化ツールではなく、既存の設計力や開発力を増幅する技術です。シンプレクスでは、AIを個人の生産性向上ツールから組織のデリバリーモデルへ進化させ、開発プロセス全体の品質と生産性を高める仕組みを本格的に始動していきます。

PROFILE
クロス・フロンティアディビジョン リード
クロス・フロンティアディビジョン リード