2007年の設立以来、ワークフローの専門家集団として企業の課題に向き合ってきた『エイトレッド』。ワークフローの電子化における先駆けであり、中小法人向けの『X-point Cloud(エクスポイントクラウド)』、大規模法人向けの『AgileWorks(アジャイルワークス)』といったワークフローシステムは、累計で4500社を超える企業・自治体・官公庁・教育機関などに導入されています。
一方、ワークフローシステム市場を開拓してきた歴史あるシステムゆえ、アーキテクチャや運用の仕組みの見直しが必要という課題も抱えていました。その課題に共に向き合い、ワークフローシステムのスケーラビリティ、アベイラビリティ、セキュリティの向上といったSaaSビジネス強化に助力したのが『シンプレクス』です。金融領域に強みを持つシンプレクスが、SaaS領域にどう関わったのか。そして、エイトレッドのワークフローシステムはどう進化を遂げたのか。エイトレッド、シンプレクス、それぞれの関係者から話を聞きました。
対談メンバー
- 株式会社エイトレッド
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プロダクト開発・カスタマーサクセス部 部長 取締役 佐藤 拓良 氏
プロダクト開発・カスタマーサクセス部 プロダクト開発グループ SRE(Site Reliability Engineering)チーム 課長 藤沼 有紀 氏
プロダクト開発・カスタマーサクセス部 プロダクト開発グループ SRE(Site Reliability Engineering)チーム 主任 大髙 優騎 氏 - シンプレクス株式会社
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執行役員 赤本 大輔
クロス・フロンティアディビジョン アソシエイトプリンシパル クラウドCoEリード 久間 勇祐
累計4500社以上のお客さまに選ばれてきたワークフローシステムの開拓者
「エイトレッドはワークフローソリューションベンダーであり、ワークフローを専業として15年以上運営しているとてもユニークな企業です」と語るのは、プロダクト開発・カスタマーサクセス部の部長で取締役の佐藤 拓良氏。意外かもしれませんが、これだけ長い実績のあるワークフロー専業の企業はほとんど存在しないそうです。
ワークフローとはその名の通り「仕事の流れ」の決め事です。ある事案において、誰が起案して、最初の申請を行ったのか。そして、その申請はどういった役職者の承認を経て決裁に至ったのかという、意思決定までの流れを可視化したものと考えてください。これら、社内で行われるさまざまな申請や稟議などの業務手続きを電子化するのが、ワークフローシステムです。
「最近のワークフローシステムは、クラウドを活用したSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)が主流。経営システムやバックオフィスシステムといった業務システムとワークフローシステムを連携する動きが加速しています。その結果、ワークフローシステムを専業としない業務システムベンダーの参入も増加しており、競争は激化しています」(佐藤氏)
ワークフローシステムの市場規模は2020年度から2025年度までに1年あたり平均12.0%の成長が、そしてクラウドを活用したSaaS領域においては1年あたり平均28.0%の成長が予測されているそうです(引用:2021年発刊 富士キメラ総研『ソフトウェアビジネス新市場 2021年版』)。そんななか、エイトレッドはその前身であるソフトクリエイトの一部門として2003年からワークフローシステムを構築してきた開拓者。確固たる実績を背景に、累計4500社を超える多くのお客さまに選ばれてきました。
「紙の書類をWeb上でそのまま再現できることで、デジタルアレルギーが強い20年前にも受け入れられました。紙の再現はコンセプトとして受け継がれています。また、長い経験で培ってきたノウハウにより、さまざまな業種業界で、それぞれの業務に適応したワークフローシステムを構築できる汎用性も強みです」と佐藤氏。「今や電子ワークフローは当たり前ですが、我々が日本での先駆けと自負しています」と胸を張ります。
そんなエイトレッドが提供するワークフローシステムは、主に中小法人向けの『X-point Cloud(エクスポイントクラウド)』、大規模法人向けの『AgileWorks(アジャイルワークス)』の二種類。『AgileWorks』にはパッケージ版とクラウド版が存在します。いずれも、稟議書をはじめとした社内申請・承認業務の電子化を行うワークフローシステムです。
『X-point Cloud』は、12年連続で国内シェアNo.1。ノーコード、そして、直観的操作が可能なシンプル利用のクラウド型ワークフローシステムです。『AgileWorks』は、大規模かつ複雑な組織構造を考慮した設計で、組織改編に強く、基幹システム連携など拡張性に優れます。さらに、『AgileWorks』は、1ユーザーごとの課金制ではなく、ログイン中の利用者だけをカウントする「同時ログインユーザーライセンス」方式で、大規模組織でも必要なライセンスを無駄なく・効率よく利用可能です。
最新サービスである『AgileWorks クラウド版』の発売が開始されたのは、2024年3月25日。ワークフロー市場におけるクラウドシフトに対応し、追加されました。このクラウド部分の新たな構築と『X-point Cloud』のクラウド機能拡張において協力したのがシンプレクスです。
ワークフローシステムにいち早くクラウドを導入したことで生まれた課題
実は、エイトレッドはワークフローシステムのクラウド化においても、他社に先んじていました。『X-point Cloud』は、まだクラウドが一般的ではなかった2011年に販売を開始しています。この際、いち早く東京リージョン開設直後のAWSを採用していました。しかし、佐藤氏は「先駆者であったことが、現在の課題につながりました」と吐露します。
「10年以上前にAWSを導入したのは、かなり先進的でした。当時のAWSには、仮想サーバ、オンラインストレージ、データベースくらいしかサービスがなく、構築・運用自動化などの足りない部分はエイトレッドが自社で構築。数人のエンジニアで、1,000社を超える環境を運用していました。この技術力も我々の強みです。しかし、クラウドは常に進化をしています。自社で開発していた運用の仕組みも、今ではほとんどAWSに標準サービスとして実装されています。つまり、AWSを使いこなせば、自ら構築したり運用自動化機能を開発し続ける必要がなく、より効率的にワークフローシステムを提供できるというわけです」(佐藤氏)
コロナ禍以降、リモートワークでも社内申請・承認業務が可能なワークフローシステムに対する期待は、急速に高まっています。ライバルの参入により競争環境も激しくなるなか、新たにリリースする『AgileWorksクラウド版』やバーションアップする『X-point Cloud』では、AWSを最大限に活用する必要がありました。ただし、問題は、AWSが高度に専門化していること。
エイトレッドのインフラエンジニアで、クラウドサービスの運用・保守チームのリーダーを務める藤沼 有紀氏は、「正直、ほぼ全ての仕組みを自社で構築していたので、AWSに関しては知識が薄かった」と率直に話します。そこで頼ったのが、シンプレクスでした。シンプレクスは金融領域のスペシャリストとして知られた存在。なぜエイトレッドは、ワークフローシステムというSaaS領域で、シンプレクスを選んだのでしょうか。
実は、佐藤氏はさまざまなIT企業で実績を残してきた人物。そのひとつに、AWSを運営するアマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社がありました。その際、シンプレクスと関わる機会があったといいます。
「AWSではBLEA(Baseline Environment on AWS)という複数の環境を同じセキュリティポリシーでガバナンス(管理)するための設定テンプレートを提供しています。シンプレクスは、BLEAを金融領域に特化させたバージョンの開発に携わっており、当時から情報交換をしていました。その経緯から、新たにリリースする『AgileWorksクラウド版』や『X-point Cloud』のバージョンアップをAWS環境に実装する作業は、セキュリティ面でも安心できるシンプレクスの力を借りることに決めました」(佐藤氏)
AWSに強みを持つSIerはほかにも検討したという佐藤氏。そのなかでシンプレクスが選ばれたのには、いくつか理由があります。そのひとつが、支援の形態。多くの企業から、「リモートでの支援しかできない」と言われたそうです。佐藤氏は、「我々はAWS技術を活用した開発の内製化も見据えていたので、週に何度かは常駐して一緒にプロジェクトを進め、さまざまな技術をレクチャーしてもらうことを望んでいました。それを満たしているのは、シンプレクスだけだったのです」と振り返ります。
なぜ、ほかのSIerができないと断ったことをシンプレクスはできたのか。クロス・フロンティアディビジョンでインフラ・クラウドDXグループを統括する執行役員の赤本 大輔は、「コンサルティングからアプリケーション開発、インフラ構築まで、一気通貫でやれるエンジニアがいるからこそ、伴走型でお付き合いができます」とその問いに答える。
「SaaS事業者様の中には、内製化志向のお客さまが多くなっていると感じています。しかし、多くのSIerは協力できる範囲が縦割りです。シンプレクスは、フルスタックエンジニアを育成しており、伴走型で一気通貫のお手伝いが可能。内製化をご支援するサービスにも力を入れています。また、現在は祖業であり圧倒的な強みを持つ金融領域に留まらず、金融業界以外のお客様も積極的に支援しています。その事業戦略に基づき、エイトレッド様のプロジェクトに携わりました」(赤本)
実際にプロジェクトの現場に赴いたのは、クロス・フロンティアディビジョンのアソシエイトプリンシパル、久間 勇祐。自らの役割をこう振り返ります。
「AWSのプロフェッショナルとして、AWSをどのように活用するか、プロダクトの搭載に必要なことは何かを考えて、仕組みを構築するために、エイトレッド様のSREチームにジョインしました。佐藤さんは前職がアマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社でAWSに詳しいこともあり、明確なビジョンを持っています。だだ、それを実現するためにAWSの様々な機能を使いこなせるエンジニアがいなかった。そこをつなぐ役割だと認識していました」(久間)
コンサル、開発、実装、運用保守まで一気通貫で携わり内製化を支援
久間が最初に着手したのは、エイトレッドのAWS環境で採用するInfrastructure as Code (IaC)ツールを選定すること。内製化というリクエストを踏まえ、どれを採用するかを考えるところから始まりました。
「AWSにおけるIaCツールで主流なのは、AWSリソースの定義をjson/yaml形式で記述する『AWS CloudFormation』やプログラミング言語で記述し『AWS CloudFormation』 を通じてデプロイする『AWS CDK』、サードパーティー製の『Terraform』などです。その便利さから『AWS CDK』と『Terraform』の人気が高いと思いますが、『AWS CDK』の場合、TypeScriptやPythonといったプログラミング言語を覚える必要があり、『Terraform』はHCLという独自言語を覚える必要があります。今回のミッションは、エイトレッド様がご自身でAWSを活用できるようになること。インフラエンジニアは一般にプログラム言語に触れていない方が多く、エイトレッド様で実際に作業を行うインフラエンジニアもそうでした。『AWS CDK』を使うと内製化への道のりが遠くなるかもしれないと感じました。また、すでに一部で『AWS CloudFormation』を使用されていたので『AWS CloudFormation』を採用しました」(久間)
久間は、内製化を見据えて詳細な虎の巻も作成。「『AWS CloudFormation』を使ってインフラのリソースを定義するのですが、お客さまの使用パターンに合わせたテンプレートを作って、ドキュメントにまとめマニュアルを作成。どのインフラエンジニアでも対応できる内製化の仕組みを整えました」と語ります。
実際にクラウドへの実装・構築を担当するクラウドエンジニアは、エイトレッドの大髙 優騎氏。内製化に関して、こう振り返ります。
「『AgileWorksクラウド版』のリリース以降は、私が久間さんに用意していただいたテンプレートと手順書を使って構築しています。新メンバーにも手順書とテンプレートがあることで引き継ぎしやすかったので助かりました。また、今回のプロジェクトとは直接関係ないAWSの使い方や運用方法に関しても、さまざまな質問を投げかけ、アドバイスをもらいました。AWSのスキルが上がり、より深く学習するきっかけにもなったと感謝しています」(大髙氏)
シンプレクスの強みは、前述した一気通貫。久間の業務は、現場でのエンジニアリングや内製化だけに留まらず、コスト面でのアドバイスなどにも及びました。
「AWSでお客さまのサーバに変更を加えたときに、仮に1社当たり500円程度コストが上がったとします。しかし、エイトレッド様の顧客は軽く1000社を超えます。そうなると、AWSへの支出増は50万円を超えてしまう。やりたいことを全てやるのではなく、費用対効果を加味して何が必要かの議論を重ねました」と語る久間に佐藤氏は、「非常に重要なポイントで、技術面だけではなくコスト的も見合うかをチェックした上で、できる、できないを判断してもらえたのはありがたかったです」と返します。
クラウドサービスの運用・保守チームのリーダーである藤沼氏が驚いたのは、久間の技術力です。
「久間さんはプログラム言語も理解できているので、製品開発チームともやり取りをしながら、ワークフローシステムのプログラムを解析。新たに導入したAWSの構成でも動くように仕上げて、マニュアル化してくれました。インフラとアプリ、両方を見て調整できるのが最大の強みではないでしょうか」(藤沼氏)
久間のようなエンジニアを指して、『フルスタックエンジニア』と表現することがあります。いわゆるオールラウンドプレーヤー。システム開発分野において、幅広い知見で上流から下流まで複数の業務を網羅します。佐藤氏は久間の仕事ぶりから、「シンプレクスはコンサル、開発、実装、運用保守まで一気通貫で手掛けます。その守備範囲の広さが、フルスタックエンジニアが生まれる土壌な気がします」と感想を述べます。
その言葉を受けて、「アプリ・インフラの両方をより高度に扱える人材が他社との差別化要因になる。そういった考えから、フルスタックエンジニアの育成に力を入れています」と返答する赤本。こう続けました。
「シンプレクスでは、フルスタックエンジニアを育成するという目的で、アプリケーションチームとインフラチームで人事異動を含む人材交流や技術情報の交換を実施しています。久間もアプリケーション開発の経験を積んだ上で、インフラ・クラウドDXグループに異動。そういった人材交流を積極的に進めることで、フルスタックエンジニアを数多く育成しています」(赤本)
伴走型の内製化支援でDXを推進
今回、『AgileWorksクラウド版』では、新たにAWSのクラウド基盤を構築し、『X-point Cloud』においてはAWSのクラウド機能の拡張を支援したシンプレクス。クラウド環境のスケーラビリティ、アベイラビリティ、セキュリティの向上に寄与しました。
佐藤氏は「『AgileWorksクラウド版』、『X-point Cloud』のどちらも、サービスのエンハンスがしやすくなり、お客さまが求める機能の強化が容易になりました。また、『X-point Cloud』では、BLEAによりガバナンスが向上。ISMS(Information Security Management System)プロセスの運用のためのログの集約、分析環境も構築できました」と成果を挙げます。
「今回のプロジェクトによって、シンプレクスのエンジニアの技術力が、金融領域のお客様以外にも確実に通用すると身をもって感じました。今後、金融領域以外にもビジネスを広げていくために、お客様のチームと一体感を持った伴走型の内製化支援で他社と差別化して、お客様のDXを推し進めていきたいと思っています」(赤本)
PROFILE
プロダクト開発・カスタマーサクセス部
部長 取締役
プロダクト開発・カスタマーサクセス部
プロダクト開発グループ 課長
プロダクト開発・カスタマーサクセス部
プロダクト開発グループ
執行役員
FXシステムの開発・運用保守担当からキャリアをスタートし、徐々にインフラ領域に軸足を移す。インフラ領域では、ミッションクリティカルな金融システムのインフラ導入案件のリードや、AWS CoEの立上げやサイバーセキュリティ領域のマネジメントも担当。2023年にインフラ・セキュリティ領域の責任者として執行役員に就任。
現在は、金融領域で培ってきたクラウド技術を活かして非金融領域への事業拡大をミッションにエンタープライズ向けのDX支援に従事。
クロス・フロンティアディビジョン
アソシエイトプリンシパル
クラウドCoEリード