ポーラでは顧客一人ひとりのパーソナリティや悩み、店舗での体験履歴などを蓄積することで、一人ひとりに寄り添った顧客体験を可能にする店頭接客サポートシステム「カルテna」を開発。全国のポーラショップや百貨店コーナーなどへの導入を進めています。開発に携わったポーラのみなさんとシンプレクスの担当者が、このシステムが完成するまでの過程と今後の展開について語り合いました。
対談メンバー
- 株式会社ポーラ
- 人事戦略部部長 元林 由喜氏 (開発時:店舗DXタスクフォースリーダー)
- 顧客戦略部 顧客リレーションチーム 山﨑 一人氏
- 株式会社ポーラ・オルビスホールディングス
- グループデジタルソリューションセンター 店頭・DX推進チーム 田端 晴美氏
- シンプレクス株式会社
- クロス・フロンティアディビジョン エグゼクティブプリンシパル 峯嶋 宏行
- クロス・フロンティアディビジョン アソシエイトプリンシパル 亀山 明佳
- クロス・フロンティアディビジョン アソシエイトプリンシパル 志水 秀光
- クロス・フロンティアディビジョン リード 北川 温久
店舗での接客や体験履歴を蓄積し、顧客体験のさらなる向上を目指す
ポーラでは全国に2,500(2024年12月末時点)以上のポーラショップを展開し、約19,000人のビューティーディレクター(以下BD)がカウンセリングやエステなどの美容体験を提供しています。「カルテna」は、そんなBDがお客さまを接客、カウンセリングした際の記録を残す電子カルテです。

「ポーラでは2023年4月から、国内共通IDによる会員サービス『POLA Premium Pass』を立ち上げ、委託販売店のポーラショップをはじめ百貨店カウンター、オンラインストアなどすべてのチャネルでの買い物やカウンセリング、エステの予約をOneIDで行える仕組みをつくりました。『カルテna』は、その仕組みを活かし、IDにひもづくご予約情報や使用アイテムの状況、過去の肌分析データに加え、ご利用いただいた店舗での体験履歴を蓄積し、お客さま一人ひとりに寄り添ったサービスの提供、店舗体験が最上になることを目指し開発に着手しました。」(元林氏)
ポーラは同業他社と比較して、お客さまとBDとの関係性が深く、長期にわたることが特徴だと言います。
「お客さまにじっくりと向き合うポーラのBDだからこそわかるお客さまの悩みやお気持ち、ご意向をカルテに書き留めることで、お客さまに感動をもたらすような接客をアシストしたい。それによってお客さまにもっともっとポーラに通いたいと思ってもらいたい。そんな思いでコンセプトづくりを始めました」(山﨑氏)
ポーラが大切にしている世界観を、ともに実現してくれるパートナーが必要だった
ポーラでは「カルテna」の企画趣旨をまとめた資料を複数社のシステム開発会社に配布しました。ご提案いただいた企業の中から数社を選定し、それぞれのご提案に対してより詳細な要求仕様を伝えブラッシュアップされた提案の中から、スケジュールやコスト面も考慮し、最終的にシンプレクスに決めたそうです。

「今回は単に業務を効率化するシステムではなく、ポーラが接客やサービスにおいて大切にしている価値観、世界観を表現した、パッケージシステムではない独自のシステムをつくりたいとの思いがありました。お客さまとBD、本社の人間との関係をうまくまとめるデザイン力、さらに私どもの複雑な既存システムと連携して新たなシステムを構築できる技術力は不可欠でした」(田端氏)
「カルテna」のコンセプトは、ポーラ側としても最初から完全に固まっていたわけではありません。シンプレクスに対しては、そんなコンセプト部分から一緒に考えたいとの熱意を感じたと言います。
「最初に出された提案に対し、足りないところはどこか、改善点はないかと、何度も粘り強く聞かれ、私たちのリクエストに何としても応えようとのパッションを感じました。その姿勢に感銘を受け、シンプレクスさんなら我々が目指しているものを一緒につくれそうだと思ったんです」(元林氏)

「シンプレクスとしては今までにない領域の取り組みでしたし、BD・顧客両方の接客体験を向上させながら、データ利活用も実現するというプロジェクトの幅の広さに、すごくやりがいある案件だと感じたので、我々としてもなんとしてもお受けしたかったんです」(亀山)
「『カルテna』のコンセプトの概要を伺っただけで、ポーラさんはすごく素敵なものをつくろうとされていると思いました。企画の段階から一緒に考えて、まだ世にない仕組みをつくるまたとない機会ですから、こちらもワクワクしましたね」(北川)
懸念点を深掘りする議論のすえ、短期間で全体骨格をつくりあげる
このプロジェクトは着手から10か月後に初版リリースというタイトなスケジュールでした。シンプレクスではまず検討の土台になるワイヤーフレームを作成し、ポーラ様とともに要件の解像度を上げるためのディスカッションを行いました。調整してはフィードバックをいただく作業を繰り返し、2〜3週間という短期間で全体骨格が定まりました。
「ポーラさんがこのプロジェクトに強い思いを持たれていることを感じていました。我々としても絶対に良いものをつくりたいですし、難易度の高い仕様に対しても安易にできないとは言いたくありません。とはいえ開発スケジュールやコスト面を鑑みたフィジビリティも考慮する必要があります。そのような中ポーラさんは、難易度の高い仕様に対して、『この仕様なら実現できますか?』と積極的に落としどころを探してくださるなど、常に前向きに議論を進めることができたのはありがたかったですね」(北川)
「ポーラさんの要望の実現が難しかったり、対策の検討に時間がかかったりしたとき、こちらが『なぜこの要素が必要なんですか?』と聞くと、その意図や背景をとても丁寧に説明してくださいました。単に『こうしてほしい』ではなく、『なぜ?』『どうして?』という根底の思いを伝えていただけたので、こちらも『それならばこの方法がありますよ』と代替案を提案することができました」(志水)
ワークショップでコンセプトをクリアにしたうえで、お披露目会を実施
全体骨格をかためたのち、いよいよポーラが最も重視する「ポーラらしさ」「ワクワクする要素」をどのように表現するかの検討が始まりました。そこでシンプレクスの担当も参加したワークショップで、このサービスのコンセプト、目指す世界観を改めて徹底的に議論しました。
「実はコンセプトワークは別の企業にご支援頂いていました。プロジェクト初期もその企業主導で数回行ったときもシンプレクスさんの方からぐいぐい同席の申し出があり、ポーラの想いを積極的にくみ取ろうとする熱意を感じました。そして改めてポーラらしいワクワク要素ってなんだろうと、いうワークショップをプロジェクト中盤でも実施し、3社間で白熱した議論をしました。」(山﨑氏)

「我々のプロダクト検討プロセスの中では、ユーザを徹底的に理解することを大切にしています。システムを使うBDさんがどのような思いでお客さまと向き合っているのか、日常の接客の中で『カルテna』はどういった存在であってほしいのか、逆にどういうことは望まれていないのか、ワークショップでの議論を経て理解が深まりましたし、『美容とは、私をいつくしむこと』『自分らしく生きることを応援する』などといったポーラが大切にしている価値観、ポーラらしさを自分ごと化することもできた気がします」(亀山)
ポーラのBDは従業員ではなく、個人事業主になります。そのため、本システムの使用を強制することはできません。だからこそポーラでは、BDが自ら使いたくなるワクワク感、UI/UXが肝だと考え、徹底的にこだわったのです。ワークショップでの議論も、ほとんどがそのためのものでした。
「ポーラの美容に対する大事な価値観として、『結果だけではなく、なりたい肌に近づいていくプロセスを楽しんで頂きたい』というものがあります。そのプロセスをサポートし伴走するのがBDです。議論を重ねているうちに、“『カルテna』を媒介にお客さまやBDの肌に向き合う時間、お客さまを支える活動がより楽しくなっていく”“『カルテna』がBDの相棒として、日々の活動をモチベートしてくれる”“お客さまのなりたい肌実現に向けた努力や活動に対して承認や賞賛が連鎖する”、そんな「褒められベール」というコンセプトができました。そこからはプロジェクトメンバーの皆さんからもアイデアがより活発に出るようになり、一気に『カルテna』のUI/UXが固まっていった気がします」(山﨑氏)

「カルテna」の活用度を花束の量で可視化するUI、アクションを完了するごとに「接客お疲れさまでした」などとねぎらいの声をかけてくれる機能は、このコンセプトをもとに生まれました。

その後、東京と大阪でお披露目会が開かれました。シンプレクスの担当者も参加し、「カルテna」を実際に使うBDたちの声に耳を傾けました。
「お披露目会での現場のみなさんの反応はすごく良かったですね。とくにお客さまの肌の状態などをイラストでメモできるお絵かき機能を、とても喜んでくださいました。そこでその後、この機能を充実させ、使い勝手をさらに向上させることにしました。参加して下さったシンプレクスの皆さんが『我が子のデビューを見守るような面持ち』だったのもとても微笑ましかったです(笑)」(元林氏)
「これまで開発の仕事に携わってきたなかで、ユーザの方が目の前で我々がつくったものを体験してくださるような場に参加したのは初めてです。『カルテna』をどれくらいBDのみなさんに使ってもらえるのか、我々としても不安でしたが、ポジティブなご意見を多くいただけて一安心しました」(北川)
ドラスティックに実装計画を変更し、両社がワンチームとなって難局を乗り切る
本システムの目的の一つである、顧客体験の向上のために欠かせないポーラのさまざまなデータベース、情報資産との連携が、シンプレクスにとっては正念場でした。
「『カルテna』はエステや肌分析の来店予約ができる会員サービス『POLA Premium Pass』など弊社のその他のシステムと連動しています。弊社の既存システムは非常に複雑なので、最初は戸惑われたのではないかと思います」(田端氏)
「異業種の我々にとっては、正直、最初はわけがわかりませんでした(笑)。当初は同じようにみえるデータのうちどのデータを選定し、どのように加工すべきか判断できず、ポーラさんや連携先システムの担当者の方々に都度確認していただきました。田端さんをはじめ、ポーラのシステム担当の皆さんと相当な回数のラリーをさせていただいて、一つひとつひもといたことで、複雑なデータ連携の仕様を整理することができました。今ではポーラさんのデータの知識に関しては自信があります(笑)」(北川)

「カルテna」の開発工程では、開発作業と並行しながら仕様の再検討や追加をしたこともあり、実装も複雑だったため、開発チームは開発工程の終盤で大きな決断をしました。
「そのまま無理して頑張ればリリースまではいけるものの、エンハンスのタイミングで開発がしづらくなってしまうことが予想されました。でもこのシステムはポーラさんの店舗DXの大きな一歩なので、初期導入よりもリリース後の展開のほうがむしろ大事です。リリース予定日が迫る中、開発メンバーと話しあった末に、既に概ねできあがっていたシステムのうち、重要な部分をもう一度、異なる仕組みでつくり直すことにしました。勇気のいる決断でしたが、ポーラさんの期待に応えるためには、やるしかないと腹をくくりました」(志水)
「そのほかにも、お絵かき機能は苦労した部分です。店舗で使うiPadではお絵かき機能のパフォーマンスが十分に出ないなどの課題がありましたが、BDのみなさんがこの機能をとても重要視してくださったのは良くわかりましたし、この機能が『カルテna』の利用率に大きく影響すると感じていたので、何度もしぶとく調整をしました。最後まで諦めず、何とか実現できて本当に良かったです」(峯嶋)

「パフォーマンステストも大変でしたよね。想定の数倍の数のテストが必要で、最後の2か月は本当にハードでした。シンプレクスさんと我々が会社の垣根を超えてワンチームで協力しあい、乗り越えることができました」(田端氏)
リリース後のトラブルもなく、直感的に使えるため、問い合わせも少ない
そんな両社のタッグにより、ついに2024年11月に「カルテna」をリリースすることができました。大きなトラブルもなく、開発に関わったメンバーは胸をなでおろしました。
「新しいシステムを導入すれば、操作に関する問い合わせがたくさん来るのが普通です。でも『カルテna』の場合は、ほとんど問い合わせがありませんでした。それだけ直感的に使え、操作性が良かったからだと思います。シンプレクスさんとともにUI/UXにとことんこだわり、苦労してつくった甲斐がありました」(元林氏)

「カルテna」にはお客さまとの会話をメモし、次回の来店までに準備することをリスト化し、アラートしてくれる機能があります。あるBDの方が入力したカルテに、『筑前煮のお礼を言う』というメモがあったことが、ポーラ社内で大きな話題になったそうです。
「お客さまが筑前煮をわざわざお店に持ってきてBDに差し入れしてくださったらしいのです。実にポーラらしいエピソードです。でもこんなエピソードも、『カルテna』を導入したからこそ明らかになり、社内で共有できたのです」(元林氏)
「今後、『カルテna』を使えば使うほど、このようなBDとお客さまとの濃密なやりとりの情報が蓄積されていきます。それを全国のBDが参考にし、より良い接客に生かすことができます。今後、お店や担当が変わっても、『ポーラはこんなに自分のことをわかってくれているんだ』といった感動をお客さまにもたらす接客が、これからどんどん広がってくことを期待しています」(山﨑氏)

遠慮なく率直に意見をぶつけあうなかで、より良いプロダクトが生まれる
ここで今回のプロジェクトを振り返り、シンプレクスの担当者に、ポーラとの仕事で感じたこと、学んだことを聞きました。
「画面デザインの議論の際、ポーラさんは業務面・システム面ともにジャッジが早く、できるだけ判断を持ち帰らず、その日の議論の場でどんどん決定してくださいました。ミーティングではみなさんすごく率直で、不安なことは正直に伝えてくださいます。ダメ出しは遠慮なく言ってくださる一方、いいときはすごく褒めてくださいます。そんな風通しのいい議論から、良いプロダクトが生まれてくることを痛感しました。リリース後の利用実績やBDさんからのフィードバックも逐一いただけ、私どもにとっての大きなモチベーションになっています」(亀山)
「ミーティングで『これはポーラらしくないよね?』『そうだね、やめよう』といった形で、みなさんが『ポーラらしさ』を軸にものごとを判断していること、『ポーラらしさ』に徹底的にこだわっていることに感動しました。もちろん各機能のユーザビリティは重要ですが、その機能が果たして『ポーラらしい』接客や顧客体験に繋がるかを最も気にされている姿勢・文化は本当に素晴らしいと感じています。正直、プロジェクト発足当時は『ポーラらしさ』と言われてもピンと来なかったのですが、最近では『これはポーラらしいか?』という観点で常に思考している自分に驚いています(笑)」(北川)

「ポーラさんが我々をパートナーと考えてくださってくれたのはとてもうれしかったです。今回のプロジェクトを通し、新しいものをつくるうえでは、最初から自分たちだけで完成形を目指さず、密にコミュニケーションをとりながら少しずつ形にしていくことも有効なのだと学びました」(志水)
「このプロジェクトのチームは、何でも言い合える本当に最高のチームだったと思います。『カルテna』はこれからさらに発展していくので、ポーラのみなさんと議論を重ねながら、より良いものへとグレードアップさせていきたいと考えています」(峯嶋)
ポーラならではの接客データを蓄積し、マーケティングや営業支援に活用
最後にポーラのみなさんに今後、シンプレクスに期待することを伺いました。
「現在、実際に『カルテna』を使ったBDからの改善要望を吸い上げ、機能をアップデートすべく、シンプレクスさんと議論を始めています。将来的には蓄積したデータをマーケティングや営業支援にどんどん活用していく予定です。『カルテna』を軸に、より良い接客やお客さまへの提案をつくりだすループを生み出したいんです。この点においてもぜひ、シンプレクスさんのご支援を期待しています」(山﨑氏)
「今後も単なるシステムベンダーではなく、新しい業務やサービスをシステムの面から一緒に考えてくれるパートナーとして、おつきあいいただけるとありがたいですね」(田端氏)
「今回、シンプレクスさんとはすごく良い関係性をつくれ、ワンチームとなって仕事をさせていただきました。この関係性をこれからも大事にしながら、ぜひ『ポーラらしさ』を知悉した最高のパートナーとして、私どもの課題解決をサポートいただければと思います」(元林氏)
PROFILE

人事戦略部部長

顧客戦略部
顧客リレーションチーム

グループデジタルソリューションセンター 店頭・DX推進チーム

クロス・フロンティアディビジョン
エグゼクティブプリンシパル

クロス・フロンティアディビジョン
アソシエイトプリンシパル

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アソシエイトプリンシパル

クロス・フロンティアディビジョン
リード